ソ連時代のロシア人の音楽体験を再現する貴重な記録を展示「民間音楽博物館」
ハバロフスクにはいくつもの面白い博物館がありますが、2018年8月に地元の若いカップルが開設した、この町で唯一の私立博物館である民間音楽博物館(Цастный Музыкальный Музей/World of Talking Machines Musical Museum)は、ぜひとも訪れるべき場所です。
同館には、時代物のレトロな蓄音機やソ連時代のビニール版レコード、1970年代のミュージックカセットテープ、当時の世界のロックミュージシャンのLP盤など、およそ1880年から1980年にかけて製造された音源とオーディオ機器が収蔵・展示されています。まさにソ連が崩壊に至るまでの時代に民間で聴かれた音楽体験の歴史をたどるコレクションといえます。
展示は「ヴィンテージ」「СССР(ソ連)」「ディスク」の3つのテーマの部屋に分かれています。
ヴィンテージの部屋に置かれた数多くのグラモフォン(蓄音機)は、同博物館を運営しているアンドレイ・ヴェレテンニコヴィフ(Андрей Веретенников)さんの自宅にあったプライベートコレクションをベースにしています。
ただそれだけではなく、この博物館の設立を目指して、2013年頃からヴェレテンニコヴィフさん夫婦が古いオーディオ機器やラジオ、レコード等の収集を始めたことを知った多くの市民が、自宅にあった「祖父や祖母のグラモフォン」を提供してくれたといいます。
СССР(ソ連)の部屋では、レーニンやスターリン、レーニンの未亡人のクルプスカヤ、宇宙飛行士のガガーリンらのスピーチ、トルストイ、詩人のイェセニンやマヤコフスキーなど文学者の声の録音データを聴くことができます。
興味深いのは「ボーン・ミュージック(BONE MUSIC)」と呼ばれるもので、これは1940年代から60年代のソビエト時代に政府によって禁止されていた西側の音楽を聴くために、当時の音楽ファンたちが病院で不要になったレントゲン写真に、レコードのように溝を掘り、音楽を録音することを考え出したという特殊なレコード盤の展示です。まさに「冷戦の音」ともいうべき、貴重なコレクションといえるでしょう。
→「ボーン・ミュージック(BONE MUSIC)」の紹介記事はこちら
ディスクの部屋では、1970年代当時、世界を一世風靡していた日本のラジカセやオーディオセットなどとともに、ビニール版レコードやミュージックカセットテープ、西側のロックやポップスのLP盤レコードなどの膨大なコレクションが置かれています。
この時代のオーディオ機器は日本製が優れており、それらをひそかにソ連に運んでいた話は、ウラジオストクチャンネルでジャズバーのオーナー氏も話しています。
これらのコレクションを収集する過程で、オーナー夫婦は多くの市民とすでに亡くなった家族や親戚、その家族の歴史においてグラモフォンなどの民間音楽(Talking Machines)が果たした役割とは何だったのか、何度も話したそうです。
この博物館は極東ロシアの日常生活の歴史、この地域の人々が家でどのように暮らしてきたかを解き明かします。その題材は、19世紀後半から登場した録音・複製技術をともなう民間音楽のさまざまなコレクションを通じて取り上げられています。
極東ロシアの住人の大半は移民です。彼らはソ連全域の遠く離れた場所からこの地に移住しましたが、生活が落ち着いてくると、自らの環境が文化から切り離されていることに気づきました。彼らは新しい土地に独自の文化を構築したいと願いました。音楽は最も重要な要素でした。この博物館の目的は、自分たちの土地の魂と歴史をよりよく理解し、自分自身を理解することにあるのです。
たとえば、ハバロフスクで最も愛された音楽家、マトヴェイ・パブロビッチ・シュチュラヴレフ(Матвее Павловиче Журавлеве)(1927–1999)についてのコレクションもあります。彼が作曲した有名な歌「ハバロフスクの歌(アムール川が灰色の波でざわめく)Песня о Хабаровске (Где шумит седой волной Амур-река)」は、ハバロフスク市民なら知らない人はいないでしょう。
Песня о Хабаровске(Где шумит седой волной Амур-река)
同博物館では、さまざまな民間音楽に関するワークショップやイベントが行われており、海外との交流を計画しています。
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同館の場所は、シナゴーグの通りを挟んだ斜め向かいにあり、コムソモールスカヤ広場から徒歩12分ほどです。入場料は250ルーブル。ぜひ訪ねてみてください。
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