サハリンで味わうジョージアワインとスパイシーなコーカサスグルメ
サハリン滞在中の楽しみのひとつが、中央アジアとその先にあるコーカサス地方のジョージア(旧グルジア)料理が味わえることだというのをご存知でしょうか。
食都東京でもなかなか体験できない魅惑のグルメに出会えるのが、いまどきの極東ロシアなのです。
サハリンの州都ユジノサハリンスクでいちばん人気のジョージア料理レストラン「ティフリス(Тифлис)」を紹介しましょう。
場所は、ユジノサハリンスクの目抜き通り、いまどきロシアでも古風な名称のレーニン通りに面した雑居ビルの地下にあります。ちょっとわかりにくいのでご注意ください。
階段を下りると、背後から男性に声をかけられます。ロシアのレストランでは、たいてい入店前にクロークがあり、外套を預けるのがルールだからです。日本人からすると、少々面倒くさい気もしますが、高級店でなくても、きっちり西洋式マナーを守るところは、日本と違うんですね。
店に入ると、エキゾチックなスパイスの香りや肉の匂いに包まれ、地元ロシア人のカップルや家族連れが食事を楽しむ和やかな光景が目に飛び込んできます。隣のテーブルでは家族の誰かの誕生日祝いのようでした。
席に案内されると、サハリンに多いアジア系のウエイターからメニューを渡されます。まずはドリンクから。極東ロシアではそれほど珍しいことではないのですが、日本のアサヒの黒ビールが飲めます。地元では人気だそうです。でも、せっかくですから、ここではジョージアの地ビール「Zedazeni」を注文しましょう。「Zedazeni」は1本(500ml)が320ルーブル(約540円)でした。
ジョージア料理で代表的なものといえば、ハーブソースで味付けした羊や牛を串焼きにした「シャシリク」や、超スパイシーな味付けがされた仔牛のトマト煮込みスープ「ハルチョー」、チーズとタマゴを包んだジョージア風ピザ「ハチャプリ」、テントのようなユニークな形をした水餃子「ヒンカリ」などでしょうか。ジョージア料理にはジョージアワインが合います。ムクザニという銘柄の赤ワインはグラス1杯420ルーブル(約710円)でした。
メインのシャシリクは、串刺しのまま豪快に出されることもありますが、この店ではきちんと串から取り、小麦粉の薄い皮で野菜と一緒に包んで出してくれました。大ぶりの肉のかたまりをナイフで切り、口に運ぶと、ジョージアのミックススパイス「フメリ・スネリ」の独特の香味が口と鼻の中に広がります。彼らはオープンキッチンの厨房でシャシリクを焼く中央アジア系の調理人たちです。
これはハルチョーです。その辛さは東アジアにはない、クールなスパイシーさがあります。470ルーブル(約800円)でした。
ハチャプリはパイ生地でもパンでもない独特のピザ。タマゴの黄身をチーズと混ぜてから食べます。480ルーブル(約820円)でした。
見た目は小龍包風ですが、肉汁はさわやかな風味のヒンカリは3個で280ルーブル(約480円)でした。
ロシアのレストランでは、ソースやスパイス、マヨネーズなどの調味料がメニューに書かれていることがよくあります。これは自分の好みに合わせて、味を加えるためだそうです。
なかでもハーブ入りのクルミソース「サツィヴィ」は、ジョージアでは最も一般的なソースのひとつで、蒸し鶏にこれをかけた料理もサツィヴィと呼びます。「これらのスパイスや調味料を使うと、どんな料理でもジョージア風になる」と都内在住のロシアレストランのシェフは話してくれました。
ところで、なぜユーラシア大陸の西の果てのジョージア料理が、まさに東の果てにあるサハリンで食べられるのでしょうか。
ロシア人がジョージア料理を食べるようになったのは旧ソ連時代からだといいます。サハリンにも当時から労働者として送り込まれた中央アジア系移民が多く住んでおり、市内にいくつもの中央アジア料理店があります。
これはロシア全土でいえることですが、寒冷な北国に住むロシア人からすると、ジョージアなどコーカサスの国々は、イギリスや北欧からみた南欧のように、食に恵まれた温暖な土地で、おいしいものの宝庫と考えられてきました。ロシア料理にはないスパイシーな刺激も彼らを魅了したのです。家族や友人と外食を楽しもうというとき、選択肢の筆頭に上がってくるのがジョージア料理店だったりするのです。
ワインのセレクトも同様です。クリームソースを多用するマイルドなロシア料理にはない、ジョージア料理の刺激的な味が、黒海に面したジョージア産のセミスイートなワインによく合うといわれます。この店のワインリストにも、たくさんのジョージアワインの銘柄が並んでいました。ワインリストにはアルコール度数や何年産かが書かれていました。
ジョージアワインの特徴は、オーク樽やクヴェヴリという甕で熟成する紀元前6000年から伝わる醸造法にあります。世界最古のワインの地として知られ、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
有名なものとしてはドライ系で香りの強い「ムクザニ」。スターリンが愛飲し、英国のチャーチル首相も絶賛した、さわやかなスイートワイン「キンズマラウリ」も広く知られています。白ではドライ系の「ツィナンダリ」がおすすめだそうです。
スパークリングワインやデザートワインも各種あって、ロシア人はことのほか食前に飲む甘いシャンパンがお好みのようです。
ジョージアの赤ブドウの主な品種は「サペラヴィ」といい、銘柄によって濃淡はあるものの、ワイルドベリーやタバコ、チョコレートなどの香りが含まれ、酸性も強いといいます。ムクザニやキンズマラウリはサペラヴィから生産されています。
サハリンのスーパーではジョージアワインが1本500円くらいから高級品まで幅広く販売されています。
現在、ロシアではフランスやイタリア、スペイン、南アフリカ、チリ、オーストラリアなど世界各地のワインのほとんどが輸入されていますが、この国の人たちにとって長い間ワインといえばジョージアやオセチア、モルドバなどコーカサス産のものだったのです。
北海道のすぐ北に位置する(宗谷岬からの最短距離はわずか43km)サハリンは、かつて樺太と呼ばれ、南半分は日本人が暮らしていた土地でした。こうしたイメージが残っていることも確かなのですが、その一方で、日本人が知らない魅力的な食とお酒の世界が待っています。
(1ルーブル=1.7円 2018年12月のレートに基づいています)
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