パリの美術館で展示されたナナイ人のテキスタイルに驚かされる
前回はハバロフスク郊外にある先住民族ナナイ人の村を訪ねて、珍しいご当地グルメを味わった話をしましたが、今回はその続きで、彼らの伝統的なテキスタイル※の話をしましょう。それは実に魅力的な世界で、国際的にも高く評価されています。
※布製品における生地や柄のこと
その説明に入る前に、シカチ・アリャン(Сикачи-Алян)を訪ねるカルチャープログラムのひとつで、ナナイ人のシャーマンの儀式のパフォーマンスを観ることにしましょう。
もちろん、これは観光向けに簡略化されたものですが、ナナイ人に限らず、極東ロシアやシベリアに住む先住民族の多くはシャーマニズムの世界を生きてきました。現在もロシア各地にシャーマンはいて、多くの人たちを癒しているといいます。
ナナイ人の民俗文化が視覚的に表現されているのが、彼らの衣装です。
これらは現代化されたカラフルなものですが、細かい文様には魔除けのような宗教的な意味が含まれています。
この大きな敷物の文様もナナイのものです。
衣装だけでなく、アクセサリーも展示されていました。面白いのは、この首飾りの素材は魚の骨を使っていると想像ができることです。
実は、ナナイ人は昔、アムール川でとれるサケやマス、イトウなどの大型の淡水魚の皮を使って衣装や靴、カバンなどをつくっていたのです。
極東ロシアには多くの先住民族が住んでいますが、ナナイ人のテキスタイル文化ほどユニークなものはありません。さらには、デザイン的な美しさも高く評価されています。
それを物語る興味深い話があります。2015年冬、パリのセーヌ川沿いにあるケ・ブランリ美術館で、ナナイ人をはじめ、ニヴヒやアイヌなどの極東ロシアの先住民族のテキスタイルをテーマとした企画展「アムール河の美学~極東シベリアの装飾アート(ESTHÉTIQUES DE L’AMOUR Sibérie Extrême-Orientale)」が開かれました。
ケ・ブランリ美術館は、ヨーロッパ以外の地で生まれた文明と芸術との新しい関係をテーマに掲げた「原始美術(プリミティブ・アート)」のコレクションが有名で、アフリカやアジア、オセアニア、アメリカ大陸の先住民族の文化を紹介しています。
なかでも興味深いのが、世界各地のテキスタイル・コレクションです。それらのデザインには、地域を問わず、呪術的なアニミズム(=いわゆる精霊信仰)やシャーマニズム(=シャーマンを中心とする宗教現象)の反映が見られますが、極東ロシアにおいても同じです。
■ケ・ブランリ美術館の企画展「アムール河の美学~極東シベリアの装飾アート」のサイトはこちら
これが同企画展「アムール河の美学~極東シベリアの装飾アート」のカタログです。
中を開いてみましょう。これは17世紀にヨーロッパで描かれた極東の地図です。まだこの地域の輪郭や全体像がつかめていなかったこの時代から、ナナイ人たちは自分たちの生活文化を守りながら暮らしていました。
ここからがすごいです。これらは魚皮でつくった衣装です。衣装に使われた魚皮は、接写すると、うろこがはっきりわかります。細かい編み込み施されたプリミティブな美しさとともに、生々しいまでの迫力があります。
このバッグの精巧なつくりやデザインの洗練さには言葉を失います。
カタログの後半に素材となる魚が解説されています。これはイトウです。
ところで、ナナイ人の住むシカチ・アリャン(Сикачи-Алян)は人口200人ほどの村です。
ここにはもうひとつ必見の場所があります。集落からすぐ近くの川岸に新石器時代の初期(1万2000年前)のものと思われる岩石画(ペトログリフ Петроглифы)が多く残されています。
夏であれば、村の岸辺から小型ボートに乗ると、大きな岩が転がる岸辺に着きます。そこには、ヘラジカなどの動物や鳥、不思議な表情をしたシャーマンの仮面などの絵が描かれています。
この新石器時代の遺跡群を初めて日本に紹介したのは、1919年にシベリア調査の旅に出ていた著名な民俗学者の鳥居龍蔵です。新石器時代の岩石画の価値は、今日国際的にも知られています。
博物館の隣に、昔ナナイ人が住んでいた半地下式のテントのような住居のレプリカが展示されています。白樺の木を骨組みにしたものです。
シカチ・アリャンのカルチャープログラム、充実していると思いませんか。ハバロフスクを訪ねたら、ぜひ参加してみてください。おすすめです。
このカルチャープログラムは、ハバロフスクの旅行会社Dalgeo Toursで手配しています。
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