極東ロシアの歴史は、シベリア横断鉄道抜きには語れません

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前回、ハバロフスク郊外にあるアムール大橋の歴史を紹介しましたが、今回は今年最後ということで、シベリア横断鉄道の歴史をさらにお話ししたいと思います。極東ロシアが今日の姿に至った歴史は、この鉄道の存在を抜きには語れないからです。

ロシアのシベリア開拓が始まったのは16世紀のことです。驚くことに、17世紀にはロシア人による東方視察はすでに太平洋沿岸やアラスカ方面にまで及んでいます。とはいえ、当時は満州族という北方民族の王朝である清国が北東アジア全域に勢力を広げていたので、アムール川沿岸に南下することはありませんでした。

それでも、17~18世紀にかけてロシア人はシベリア各地への移住を始めました。

状況が大きく変わるのは1858年で、当時のロシアと清国はアイグン条約、1860年に北京条約を調印し、アムール川やウスリー川をはさんだ両国間の国境線が定められました。こうして極東はロシア人の活動する舞台となり、19世紀中頃には、ハバロフスクやウラジオストクなど、多くの町が建設されました。

極東は首都モスクワから遠く離れていたので、鉄道建設は切実な問題となりました。1875年にはモスクワからウラル山脈付近の都市チェリャビンスクへ、次いでチェリャビンスクからシベリア向けの鉄道建設が開始されました。始発駅は、現在モスクワのターミナル駅のひとつであるヤロスラヴリ駅です。

始発駅は、現在モスクワのターミナル駅のひとつであるヤロスラヴリ駅

その後、1890年に皇太子ニコライが極東を訪ね、翌年ウラジオストクでウスリー鉄道の起工式に立ち会ったのは、前回説明したとおりです。

1898年には鉄道はイルクーツクまで延び、極東ではウスリー鉄道と呼ばれるハバロフスクとウラジオストク間の鉄道が開通し、運行が始まりました。その後、イルクーツクからチタを通るザバイカル鉄道も開通しました。

イルクーツクからチタを通るザバイカル鉄道も開通

当時の鉄道建設には多くの困難がありました。建設は斧やシャベルを使った手作業で行なわれていたのです。鉄のレールやセメントなどはヨーロッパから運ばれていました。実をいうと、明治時代だった当時、多くの日本人も労働者として建設に携わっています。

建設は斧やシャベルを使った手作業で行なわれていたのです

19世紀末から20世紀初頭にかけての壮大な鉄道建設とその沿線の様子を描いた珍しい記録があります。それは「シベリア横断鉄道パノラマ」と呼ばれるもので、1897年に建設途上にあった鉄道沿線を訪ねたパヴェル・ピャセツキーという人物が、車窓からの眺めを描いた数多くの水彩画をつないだ、長さ950mもある絵巻物です。

現在それはサンクトペテルブルクにあるロシア鉄道博物館でデジタル展示されています。

そこでは、ロシアが清国からシベリア横断鉄道の短絡ルートとして満洲(現在の中国東北地方)を横断し、満洲里(まんしゅうり)やハルビン、綏芬河(すいふんが)などを経由する東清鉄道の敷設権を獲得した1896年以降の沿線の様子をみることができます。

清国人がロシア人と一緒に鉄道の開通を祝っている光景などが描かれています

興味深いことに、その絵巻物にはトンネル工事の様子や当時清国の最北端だったモンゴル平原の長閑な風景、清国人がロシア人と一緒に鉄道の開通を祝っている光景などが描かれています。

→シベリア横断鉄道パノラマについてはこちら

この写真は、20世紀初頭の東清鉄道の主要駅だったハルビン駅の風景です。アールデコ様式の優美でモダンな駅舎だったことがわかります。

東清鉄道の主要駅だったハルビン駅の風景

そして、1903年には東清鉄道がウラジオストクまでつながり、シベリア横断鉄道の最初の鉄路となったのです。

1903年には東清鉄道がウラジオストクまでつながり、シベリア横断鉄道の最初の鉄路となったのです
20世紀初頭のウラジオストク駅

もうひとつのルートが開通するのは、それから13年後です。まず、1911年にザバイカル地方からハバロフスクの手前に至るアムール鉄道が開通しました。アムール川を横切る鉄橋が完成するのは1916年10月18日で、これでシベリア横断鉄道は全通しました。

アムール川を横切る鉄橋が完成するのは1916年10月18日で、これでシベリア横断鉄道は全通しました

その後も極東では鉄道建設が進められました。ソ連時代には、第2シベリア鉄道と呼ばれるタイシェトからタタール海峡(間宮海峡)に至る、全長約4300㎞のバム鉄道も建設されています。

モスクワからハバロフスク経由でウラジオストクに至るシベリア横断鉄道は全長9300kmと世界最長の鉄道です。

シベリア横断鉄道は全長9300kmと世界最長の鉄道です

いまから約120年前に開通したシベリア横断鉄道のウラジオストク発「ロシア号」は、今夜もモスクワに向けて発車しています。

ウラジオストク発「ロシア号」は、今夜もモスクワに向けて発車しています

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